JR九州ではIC乗車券を利用する場合、初乗り運賃で福岡・大分・熊本・佐賀の４県を訪れることができ、これは「SUGOCA大回り」と呼ばれています (ただし改札外には出られません)。
・大回り乗車とは
鉄道の運賃は距離に応じて徴収されるのが原則です。通常は目的地までの切符を買うと、その切符の料金計算上の経路と実際に通るルートは一致します。最短ルートを通るのが時間的にも料金的にも最も合理的な経路である場合が多いからです。しかし、首都圏や関西圏などの大都市圏では、鉄道路線が網の目のように張り巡らされているため、A駅からB駅まで移動するのに何通りもの経路が考えられるという場合があります。
(大回り乗車では線路が分岐する駅は大切です)
例えば、東京駅から新宿駅まで移動するのに、中央線を使ってもよいし、山手線外回りを使ってもよいし、内回りを使ってもよいという具合です。あえて遠回りをしたいなら、東京駅から武蔵野線直通電車に乗って府中本町駅まで行き、南武線に乗り換えて武蔵小杉駅に出て、さらに湘南新宿ラインに乗り換えて新宿駅に至るという経路も考えられます。
大都市圏ではこのように切符の経路が無数に考えられるため、JRでは運賃計算上の煩雑さを軽減するために、「実際に乗車する経路にかかわらず、最も安くなる経路で運賃を計算する」という区間を設けている区間があります。これを大都市近郊区間と言い、東京や大阪のほか、新潟、仙台、そして福岡近郊で設定されています。一方で、東京や大阪に次ぐ大都市圏である名古屋近郊には設定されていません。一説には、複数経路が生じる原因となる環状の経路が少ない (名古屋圏では1か所のみ) からであると言われています。
(九州でもできる大回り乗車)
この大都市近郊区間の特例制度を利用したのが大回り乗車です。先ほどの例でいえば、東京駅から新宿駅まで移動するのに、最短経路である中央線を利用するのではなく、あえて長い時間電車に乗るために京葉線→武蔵野線→南武線→湘南新宿ラインと乗り継いで新宿駅に行くといった遊びです。路線図を見れば、東京近郊区間ではさらに乗車時間を延ばすことが可能であるとわかります。東京近郊区間の最長大回り経路は１日で回り切ることができず、達成できるのは終夜運転の行われる大晦日～元日のみです。
(九州の普通電車)
・SUGOCA大回りとは
前述のように、福岡都市圏でも大都市近郊区間が設定されているので、大回り乗車が可能です。ただし、大回り可能なのは鹿児島本線の門司港駅―鳥栖駅間と、そのほかの福岡県内の一部路線のみです。しかしながら、IC乗車券を利用すれば、大回り可能な区間が大きく広がります。
(SUGOCA大回りでは山間部の区間も訪れることができます)
JR九州ではIC乗車券が利用できるエリアを福岡・佐賀・大分・熊本エリア、宮崎エリア、鹿児島エリア、長崎エリアの４つに分けており、IC乗車券を利用した場合は、乗車経路にかかわらず最も安い運賃を徴収するとしています。ただし、各エリア外への乗り越し・各エリアをまたがっての利用は認められていません。
このルールを読むと、IC利用可能エリアのうち福岡・佐賀・大分・熊本エリアは、福岡近郊区間よりもかなり広いことがわかります。さらに、日田彦山線の城野駅―新飯塚駅間、久大本線の善道寺駅―向之原駅間、豊肥本線の肥後大津駅―中判田駅間などは、IC乗車券での入出場はできないが運賃計算の特例には含める区間となっており、IC乗車券で入場後にこの区間を乗り通すことは可能です。つまり、IC乗車券で博多駅に入場後、熊本方面に進んで豊肥本線・日豊本線を回り、博多駅の１つ隣の吉塚駅に至るといった大回り乗車が可能になります。
このような大回り乗車は、JR九州が発行するIC乗車券がSUGOCAであることから「SUGOCA大回り (＝すごい大回り)」と呼ばれています。初乗り運賃で福岡・佐賀・熊本・大分の4県をまわることができるのですからスゴイですね。今回は、このSUGOCA大回りを実行したという記事です。なお、同様の理屈で、大都市近郊区間が設定されていない名古屋圏でも「TOICA大回り」が実行可能です。
